
『満天のゴール』(藤岡洋子著 小学館文庫)より
35歳医師と10歳の男の子の会話
「涼介くんにはまだ難しいかもしれないけれど、
日本は世界有数の長寿国だというのに、
高齢者が増え続けた先のことまで考えるに及んでいなかったんだ。
高齢者が増加するに伴って、
彼らを支えるための医療保険をはじめとした社会保険料も増え続ける。
いまの若い世代には、
そうした社会保険料のせいで生活が逼迫している人もいいんだ。
老親の面倒を経済面、生活面で不足なくバックアップできる人は限られている」
「いまだって毎日大変なのに、年をとってもそんなに苦しいのなら嫌になるな。
生きるって一生大変なことじゃんか」
「そうだ。だから、みんなおもりを見つけて、なんとか生きているんだ」
「おもりってなんだよ」
「涼介くんは、起き上がりこぼしって知ってるか。
だるまの形をした人形の底におもりをつけたおもちゃだ。
その人形は、おもりがついているおかげで、倒れても倒れても、
何度でも起き上がることができるんだ。
大人っていうのは、そんな自分なりのおもりを肚の真ん中に持って、
必死で生きている」
「そのおもりはどこで見つかるのさ」
「無理して探すものでもない。
涼介くんが大人になっていく過程で見つければいいんじゃないか」