Sol Cafe 『幸せの栖(すみか)』

「ここいまタウン」への歩み

味わいことばノート 166 おかんむり

『ないものあります』(クラフト・エヴィング商會 ちくま文庫)より

 

「おかんむり」

 

人というもの、そういつもニコニコばかりはしていられません。

時には怒りに身が震え、また時には不愉快なことや理不尽なことやらに、

つむじを曲げたくなくなります。

すでに当商會は、そんな「怒れる人」たちのために、

「堪忍袋の緒」なるものをご紹介申し上げましたが、

予想外に大変な反響があり、あっという間に売り切れてしまいました。

そのあとも問い合わせが絶えず、

「ええと、先だって、そちらでいただいた「緒」のことなんですけどね。

こないだ、ちょっとばかり我慢ならないことがあったもんですから、

思い切りよくスパーンと切っちまったんでさあ。

でね、また新しいのがほしいってわけなんですが、...えっ?

おいおい、そりゃないよ。

早いとこなんとかしてもらわないと、もう次の堪忍が、

はち切れそうなってんですから!」

と、気の短い方から、お怒りの言葉などもいただいております。

 

そこで!

この度はそのような「しょっちゅう怒っちゃう人」たちに、

末永くご愛用いただくべく、まったく新しい商品を開発いたしました。

なんとこの商品は、「緒」のように

「切れてしまったらそれまで」という消耗品ではなく、

一度お買い上げいただきましたら、一生涯ご使用いただける大変すぐれもの。

名付けて「おかんむり」と申します。

 

使用方法はいたって簡単。

ちょいと「頭にくる」ことが発生いたしましたら、

本品をうやうやしく取り出し、貴方の頭頂に載せていただくだけでOK。

あとはただ黙っていればよいのです。

大きく構えていればよいのです。

大きな声など出さない、暴れたりしない、ただ冷静に、堂々と!

 

周囲の人々は、貴方の頭に燦然と輝く本品を見ながら

「…今日は、あの人、おかんむりだよ」

「…なるほど、相当なおかんむりだ」

とささやき合い、静かにそってしておいてくれるはずです。

 

そうして、ただひたすら静かに「おかんむり」を頭に載せているうち、

しだいに心が穏やかになり、

不思議にも貴方の「怒り」はどこかへと消失してゆくのであります。