【味わいことばノート】 108 この一瞬の重み

田坂広志「風の便り」六季 第20便/この一瞬の重み より

 

将棋の羽生善治棋士が、かつて、ある対談で、次のように述べています。

いまでは、パソコンを使って、簡単に棋譜研究をすることができます。

しかし、興味ある局面は、実際に駒を使って盤に並べてゆっくり考えます。

駒を盤に並べて見るのは、パソコンだと、

クリックするだけで次々と進んでいきますから、

次を早く見たいという気持ちで駒を進めてしまって、

その一手の重みを実感できないからです。

パソコンで棋譜の研究をしていると、

どうしても、この先を早く見たいと思ってしまって、

自分で考えることをしなくなるのです。

 

この羽生棋士の言葉は、

決して将棋の世界だけを語っている言葉ではありません。

「この先を早く見たい」という願望が、いまの世の中には、溢れています。

そして、その願望のために、我々は、大切なことを忘れてしまうのです。

「この先を早く見たい」と思うあまり、

「この一瞬の重み」を忘れてしまうのです。

 

写真に意味はありませんが、

リンクしてシェアしたときに、写真があった方が見栄えがいいので、

散歩中に撮った写真を適当に貼っています。