Sol Cafe 『幸せの栖(すみか)』

「ここいまタウン」への歩み

【学びの散歩道】子どもたちの将来は大丈夫なのだろうか?(80) 「将来」のために「いま」を失うと

『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』(石井光太著 新潮社)

この本からまだ引き続き学んでいこうと思いますが、今回は、

「(78)子は親の鏡」で書いた児童たちの将来に関することについて、

最近読んだ本から、考えてみたいと思います。

 

元麹町中学校校長の工藤勇一先生の本です。

興味深い部分を、少しまとめてみました。

校長になりたての時代のことだと思われます。

 

その学校はこんな学校でした。

-----------------------------------

  • 公立麹町中学校に入学してくる子たちは、中学受験に失敗した子たち。
  • 主体性も自信もなくしている。
  • わずか12歳の子が「自分なんかダメですよ…」と言う。
  • 強い劣等感を抱え、勉強へのやる気も見られず、親の先生も信用できなくなっている生徒もいる。
  • 「大人なんて、どうせ」が口グセ。
  • 反発心から、問題行動を起こす生徒たちもいる。

   ・ 授業中も平気で歩き回る
   ・ みんなの邪魔をする
   ・ 友だちに嫌がらせをする
   ・ けんかも多い
   ・ 学校施設や備品などの破壊行為も珍しくない

-------------------------------------

 

ここから先生たちの涙ぐましい努力が始まります。

-------------------------------------

そこで、僕たち教員は、

「子どもたちが主体性を取り戻すためのリハビリ」が必要だと考え、

その結果、「生徒に押しつけのサービスをしない」ことを決めた。

まず、3年間、入学から卒業まで

「勉強しなさい」という声かけを一切しないことにした。

たとえ、授業中に小説やマンガを読んでいる生徒がいても、

「君には勉強しない自由がある。

でも勉強したい人の邪魔をする自由はないよ」

という最低限のルールを伝えながら、

生徒の主体性を尊重する環境をつくっていった。

 

しかし、こうした働きかけだけでは、

主体性を失った子どもたちのリハビリはなかなか進まない。

そこで考え出したのが、「生徒自身の自己決定をうながす言葉かけ」。

次の「3つの言葉かけ」をあらゆる場面で根気強く行っていった。

  1. どうしたの?
  2. これからどうしたい?
  3. なにか伝えることはある?

とはいえ、そこでなかなか答えが出てくるわけではない。

せいぜい「別に、....」とぶっきらぼうに答えるのが精一杯。

そんな時は助け船となる選択肢を示す。

「そうだなぁ、別室を用意してあげることくらいはできるけど」

「だから、君はどちらかを選べるよ。

 今から残りの時間を我慢して授業を聞くこともできるし、

 僕の用意した別室ですごすこともできるけど、どうする?」

 

すると、「じゃぁ、別室に行かせてください」などと言うので、

そこでさらに「別室に行くのは1時間でいいかい?」と投げかけ、

また生徒に考えさせ、自己決定をうながす。

はじめはこんな小さな自己決定でも、

それをくり返していると、人は必ず元気になっていく。

----------------------------------

 

ここまでやってくれる学校は、どれだけあるでしょうか?

 

発達心理学・法心理学教授 浜田壽美男さんのこの言葉に、今日接しました。

 「将来」によって食いつぶされる「いま」 

 

まさに、この当時の麹町中学の生徒たちは、

(78)の中学受験組の児童だったのでしょう。

 

私が勝手に思う子どもたちの将来は、

「自立・自律して、人とともにあり、社会から、

いや、たった一人でも、人から必要とされる大人になること」

のはずです。

 

中学受験は、そための通過点であり、手段でしかありません。

そもそも、私の大人の定義であれば、

ものすごく多様なゴールがあります。

それを、一つの価値観で「エリート」的な大人と決めつけ、

かつ、それすらも目的とするのではなく、

手段でしかない志望中学合格を目的としてしまっています。

合格できなかったときのことは考えていないのでしょうか?

 

その短絡的な「将来」のために、

小学生の貴重な「いま」を食いつぶしてしまったのです。

公立中学に行くことが、「落伍者」ではありえないのに、

その結果、心理的な「落伍者」が、出来上がってしまっています。

当事の麹町中に行けた生徒たちは、本当にラッキーです。

しかし、そうではない心理的落伍者に「いま」はないので、

その子たちの「将来」は、どうなっていくのでしょう。

 

よしんば、志望中学に受かったとしても、そこから先はまだ長いのです。

これまで読んだ本のなかには、入った中学や高校で、

ついていけずに落伍してしまった生徒が多くいることが書かれていました。

 

多くの失敗や、時には挫折も味わいながら、

それを糧にして大人になっていくのが、本来の姿なのに、....。

 

今日、アメリカ大統領選の結果が明らかになりました。

これまでの新自由主義がつくり出した格差という弊害が、

多くの「独りよがり」を生み出してしまったようです。

このままいくとは思えません。

いま、大きな転換点に差し掛かっています。

この観点に立てば、「将来」のための「いま」が揺らいでいます。

 

今、この地点に差し掛かった時、思い出されるのが、

昨日書いた「味わいことばノート 139」の田坂広志さんの言葉です。

 

 「人を育てる」とは「己を育てる」ということ

 

そこには、おごりはありません。

「人を育てる」ことは目的ではありません。

「自分を育てる」ことによって生まれる結果です。

 

私は、この言葉に大きな感銘を受けています。

それは、Solの信念である「自分が一番大事」を表しているからです。

Solのドリームマップの自己紹介は、

「太陽のような人は、自分にやさしい人です。

 だから、ほかの人にもやさしく出来る」

だからです。

これぞ、「育自の魔法」なんです。

 

これまで読んできた「子どもファースト」の考えを持つ著者の本に

例外なく書かれているのは、

育てる対象である「子ども」から学ぶということです。

そういう姿勢が大事なんです。

 

人は、一人では何もなしえません。

人とともにあって、お互いが成長し合っていくことで、

世の中が変わっていきます。

人とのかかわりのある「いま」を大切にし、

己を育てていくことで、結果としての「将来」は生まれてきます。