Sol Cafe 『幸せの栖(すみか)』

「ここいまタウン」への歩み

味わいことばノート 162 自らを癒す力

田坂広志 「風の便り」 第98便


永年、多くの人々へのカウンセリングを行ってきた、

臨床心理学者の河合隼雄氏が、

かつて、心に残る言葉を述べています。

「カウンセラーが、相談者を癒しているのではない」

この言葉の深い意味を思い起こさせてくれる、

興味深いエピソードがあります。


 
 「人工知能のカウンセラー」

 

昔、「人工知能」を開発する研究において、

コンピュータを使った、興味深い実験が行われました。

人工知能に「心理カウンセラー」を演じさせる実験です。
 

この実験においては、まず、コンピュータに、

一定のルールに従って、クライアントに簡単な質問をし、

その返事に対して、予め決められた相槌を打つよう、

プログラミングをしておきました。

そのうえで、クライアントには、

相手がコンピュータであることを知らせず、

キーボードを使って、そのカウンセラーと対話をするよう、指示をしました。

そして、何人ものクライアントに、

この「人工知能カウンセラー」と対話をしてもらったところ、

不思議な結果が得られたのです。

多くのクライアントが、相手がコンピュータの人工知能であることも知らずに、

「とても心が癒された」との感想を述べたのです。
 

この実験結果を見て、ある人工知能の専門家は、語りました。

人工知能でも、人の心を癒せる。
 
しかし、この実験結果の意味を深く見つめるとき、我々は、

それが、別な真実を教えていることに気がつきます。
 
人間は、誰もが、自らを癒す力を持っている。

そのことに、気がつくのです。
 

2003年9月22日 田坂広志

 

写真に意味はありませんが、

リンクしてシェアしたときに、写真があった方が見栄えがいいので、

手元にあった写真を適当に貼っています。