Sol Cafe 『幸せの栖(すみか)』

「ここいまタウン」への歩み

【学びの散歩道】子どもたちの将来は大丈夫なのだろうか?(112) それは自己責任です!

 

『生きることは頼ること』(戸谷洋志著 講談社現代新書)からの引用です。

 

----------------------------------------------

本来はリスクを取って行動したものが、自ら「結果責任」を取ることをいうが、

最近では責任を転嫁する際にしばしば用いられている。

特に自己責任という言葉が、頻繁に用いられたのは、2004(平成16)年4月、

戦闘が続くイラクで発生した武装グループによる日本人人質事件のときだった。

3人の日本人人質に対して、自己責任という言葉が向けられたのだ。

政府の勧告を無視してイラクに向かったのだから、自業自得だという議論だった。

彼らが果たそうとしたイラクの子どもたちへの支援や

真実の報道という尊い目的は無視され、

政府に迷惑をかけたことだけがクローズアップされた。

全体主義の下で、自ら考え、独自の行動をした人を切り捨てるための言葉が、

自己責任となってしまった。

(中略)

この事件をめぐる議論は自己責任という概念が持つ、

一つの重要な側面を浮かび上がらせている。

それは、責任が「’排他的」なものであるということだ。

ある個人に責任があるなら、別の個人には責任がない。

ある行為の結果が「私」の責任なら、

それは「私」以外の誰かの責任になりえない。

したがって、誰かに責任を引き受けさせた時点で、

それ以外のすべての人間は責任を免除される

- 自己責任論には、そうした機能も備わっているのである。

イラク日本人人質事件は、どのように転んだとしても、

日本社会に損害を生じさせるものだった。

では、その損害の責任は誰にあるのか。

自己責任を唱える陣営は、それを三人の責任にすることで、

政府や社会を全面的に免責しようとしたのである。

=============================

確かに、「自己責任」とは「排他的」と言えるでしょう。

 

労働問題を扱う雑誌「POSSE」の編集長 渡辺寛人さん曰く、

---------------------------------------

教育改革のなかで、多様性・個性・選択・自由・能力主義などの言説によって、

教育の自己責任が強化され、公教育にかけられる予算は削減された。

特に中高一貫校の増大により、中学校入試段階における受験競争が強化された。

その結果、小学校高学年のころには、

すでに家庭の経済格差が露骨に子どもたちの学校生活に反映されるようになった。

現代の教育現場は、かなりの程度、

家庭の経済状況に規定された「スクールカースト」が形成されている。

運動能力やコミュニケーション能力、容姿に加え、

塾に通い良い成績を取ることができるか否かが、

子どもたちの関係の中で、重要な意味をもつようになっているのである。

===========================

 

著者は、それを受けてこう言います。

----------------------------------------------

ここには自己責任の言説に基づく教育が陥った、一つの逆説が示されている。

もともと自己責任は、画一的な受験競争に反対し、

生徒の個性を尊重するために構想されていた。

しかし、実際には、それは新たな受験競争を触発することになってしまった。

そのうえ、公教育への予算が削られることで、

そうした競争は家庭の経済格差から露骨な影響を受けるようになった。

すなわち、一方では、

子どもたちにはどうすることもできない環境の要因によって、

その競争が左右されるのである。

子どもたちは、

自分では自由に選ぶことができない環境によってもたらされた結果に対して、

責任を負うことを求められる。

それは明らかに不合理だ。

自己責任を称揚する教育は子どもたちに

そうしたダブルバインドへと陥らせるのである。

=============================

 

排他的な自己責任論は、子どもたちをも苦しめています。

「自助・共助・公助」と言えるのは、上級市民です。

高額医療費上限額の引き上げが問題になっていますが、

国家予算は数々あれど、

どうして、人の命にかかわるところの個人負担を増額するのでしょうか。

上級市民がもうけを減らすところには手を付けないで。

何の根拠もない下衆の勘繰りですが、そんなことを思わせる時代になっています。

 

教育にかけるお金は、世界でもまれに見る低さです。

公的支出の教育費割合 日本は8% OECD加盟国で3番目の低さ | NHK | 教育

もっともっと、子どもたちのためにお金を使いましょう!