とても読み応えのある本、かつ、とってもおすすめしたい本だった。
1964年著者が33歳の時に上梓した本で、2003年の重版が最後、
今回読んだのは2020年11月に復刊された文庫本。
テレビに今話題になっている本として紹介されていたのをみて、
すぐに借りて読むことにした。
こんな一文がある。
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金持ちは貧乏人を軽んじ、頭のいいものは悪い人間を馬鹿にし、
逼塞して暮らす人は昔の系図を展げて世間の成り上がりを罵倒する。
要領の悪い男は才子を薄っぺらだと言い、
美人は不器量ものを憐れみ、インテリは学歴のないものを軽蔑する。
人間は誰でも自分よりなんらかの形で以下のものを設定し、
それによって自分をより優れていると思いたいのではないか。
それでなければ落ち着かない。
それでなければ生きて行けないのではないか。
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これは、近代現代の歴史の、そして社会の根底を流れてきたものだと思う。
『非色』は、60年前に書かれたものだが、そこに書かれた醜さは、
今この瞬間も、歴然として、世界各国の社会に残っている。
余談だが、私は、アメリカには出張で何度も行ったことがある。
外見は明るくても、根底には人種差別は歴然としてある、
そんな空気感を感じていた。
カナダはトロントだが、そこに3年住んでいたとき、
ここはアメリカとは違うと感じていた。
実態はわからないが、違いを認め合って、
尊重し合っているという感覚を肌で感じたのである。
実際、アメリカでは、
「Black Lives Matter」のようなことが今でも起こっているのである。
そしていま、世界で破壊的なことが起こっていて先行きが見えない。
それは、今が時代の節目であり、
時代が変わる大きな負荷がかかっているのではないか
私にはそう思えるのである。
その先に希望を持ちたいが、現状は限りなく「やるせない」のである。
【学びの時間】カレイドスコーピックな世界へ① 土から風へ - Sol Cafe 『幸せの栖(すみか)』 (hatenablog.com)
主人公の笑子(えみこ)は、ニグロと結婚した戦争花嫁として、
ニューヨークに渡る。
彼女が生きる中で起こった数限りない葛藤が描かれた物語である。
物語は、今のウクライナ情勢のように、はてしなく「やるせない」。
救いのない状況が最初から最後まで続いていく。
いったいこの物語は、どういう形で終わるのだろう?
と思いながら、あと数ページのところまできた。
最後の3ページで胸のつかえが降りた。
ある意味すがすがしく終わっている。
最後の3ページのために、その前の400ページがある
といっても過言ではないほどだ。
ある意味、ハッピーエンドではあるが、そんな単純なものではなく、
そこには主人公の劇的な心の変化がある。
現実や物理的なものは何も変わっていない。
変わったのは、主人公の心持ち。
今の境遇、今の自分を見つめる目が変わり、
今の自分や環境を認め、許したということではないかと思う。
私の好きなコップの水で言えば、
空のほうを見るのではなく、水のほうを見ることにしたということになる。
この本は私にとっても大事な本だった。
たまたまテレビで観て、興味をそそられて読んでみた本に意味を感じた。
実は今、私にもやるせない悩みがある。
そのやるせなさにどう向き合っていくのか、
そのヒントをこの本からいただいた。
ありがとう!