【学びの時間】予防より対処、原因より今

『その島のひとたちは、ひとの話をきかない』(森川すいめい著 青土社)には、

自殺が少ない地域を5か所訪問して分かったことが書かれています。

 

「幸せ」と「いのちが喜ぶこと」を考える ー 弾力性のあるコミュニティ - Sol Cafe 『幸せの栖(すみか)』 (hatenablog.com)

以前に読んだこの本のモデルである徳島県海部町のことも書かれています。

 

興味深いところを書きだしてみます。

 

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幸福度も平等指数も両方とも上位にあるというノルウェーで

「幸福度ランキングが高いみたいなんだけどどうして?」

と船乗り場の受付をしている女性に聞いたことがあった。

女性はとても笑顔で、その事実を知っていると言った後で、

「機会が平等だからよ」と答えた。

機会が不平等にならないようにかなりの量の税金が投入されている。

ゆえに「選択肢がたくさんあるの」。

 

もちろん100%というものはありえない。

ノルウェーにもホームレス状態にあるひとはいるし、

幸福だと思っていないひともいる。

あるホームレス状態のひとに声をかけると、

その男性は政治が悪い不平等な国だと立腹していた。

ただし、相対的に、機会が平等だ、

幸福だと思っているひとが多いようなのである。

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自分で選べるということは大事ですね。

しかし、それでも落ちこぼれる人たちはいます。

「自助、共助、公助」の順番で考えると、

どうしても、「自己責任」で片づけれれてしまうケースは、

なくすことはできないでしょう。

 

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三か所目の旅で気づいたことは、「工夫」の力である。

世界は時代とともに変化するし、ひとは多様である。

大自然は驚異であり変化する。

相手は自ら変わる。

その相手は、強大であって、相手を変えることはできない。

ひとが生き延びるためにすることは、自分を変えることでしかない。

耐え忍び頑張るのとは違う。

つらいことも多いのかもしれないが、地元の人たちは、

それを根性と気合で乗り越えるのではなくて、工夫をして越えていく。

工夫をする習慣があるというのが正しいのかもしれない。

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「工夫」というのがキーワードですね。

それも個々の工夫ではなく、地域の工夫です。

全てがうまくいくとは限らない、

だから、物事はうまくいかないということを前提に考えようというものです。

問題が起こらないようにしようと努力するより、

問題が起こったときにどうするかを考えるのです。

予防することはとても大事です。

しかし、それに加えて、ことが起こったときにどう対処するかが大事です。

たぶん、そこにはマニュアルはないでしょう。

起こることはみんな違っているので、

コミュニティで助け合って工夫し合うことが大事ということでしょう。

 

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この国(デンマーク)にいる日本人は、二つに分かれるようです。

ある生きにくいと思っていた女性の話を教えてくれた。

「この国のひとは、自分がだれかを問う」

日本にいると、どこそこの会社に勤める夫を持つ奥様という立場を確立し、

その立ち位置で近所付き合いが始まっていくという。

 

ところが、デンマークでは「あなたは誰なのか?」と問われるのだという。

肩書は関係がない。何をしているのか、何ができるのか、

何を考えていて、どうしたいのか。

これに悩むひとは、日本に帰りたいと思うのではないかと。

 

一方で、この国が好きだというひとは、このように思うのだと。

「私がだれなのかを見てくれている」と。

肩書や学歴や、そういう物差しでひとを見ない。

「ありのままの私を見てくれる」。

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これを読んだときに、『幸福学』の前野隆司さんの奥様

前野マドカさんのことを思い出しました。

アメリカでの公園デビュー(?)の経験が、

今のマドカさんにつながっています。

インタビュー:前野マドカさん「幸せでウェルビーイングな世界とは」 | Takahiro Blog (takahiro-blog.com)

 

そして、自殺希少地域訪問で見いだされたのは、7つの原則でした。

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  1. 「困っているひとがいたら、今、即、助けなさい」(即時に助ける)
  2. ひととひとの関係は、疎で多(ソーシャルネットワークの見方) 「困っているひとがいたら、できることをする。できないことは相談する」
  3. 意志決定は現場で行う(柔軟かつ機動的に)
  4. 「この地域のひとたちは、見て見ぬふりができないひとたちなんですよ」(責任の所在の明確化)
  5. 解決するまでかかわり続ける(心理的なつながりの連続性)
  6. 「なるようになる。なるようにしかならない」(不確かさに耐える/寛容)
  7. 相手は変えられない。変えられるのは自分(対話主義)

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「自己責任」という冷たさのないコミュニティがあるからこそ、

自殺率が少なくなるということのようです。

「困っている人」には、

「自己責任」ではない「困ってしまた原因」があるはずです。

その人のその状態の責任を問うのではなく、

困っているといういまの状態をそのまま受け止める、

そしてなんとかしようとする、

そこに「ひと」の本来のありかたがあるのだと思います。