【味わいことばノート】 85 気づくために

 

『リトル ターン』(ブルック・ニューマン著 五木寛之訳 集英社)より

 

ぼくの話が終わると、彼は手短に言った。

「普通とか普通でないとかいう見方にとらわれている限り、

普通でないものは普通じゃないんだ」

 

「結局のところ」と彼は続けた。

「普通でないきみを受け入れるのに、

普通でないぼくほど適しているものはないだろう。

きっときみは、自分が知っていることに慣れすぎているんだよ。

きみはこれから、自分が知らないことを知る必要がある。

それだけのことさ」

 

ぼくはその言葉を黙って考えた。

やがて彼が言った。

「きみは飛ぶ能力を失ったんじゃない。

ただどこかに置き忘れただけだ」

 

「どういうこと?」ぼくはたずねた。

「物をなくすってことは、それが消滅することだ。

しかし置き忘れるっていうのは、消えることじゃない。

探しだすには、丹念に注意をはらって、

気づかなかったことに気づくことだよ」

 

「たとえばどんなことだい」

「何が真に重要かってことさ。

たとえばきみのコレクションだ。

きみが集めてるものの中で、何がほんとに重要で、

何がそうでないかに気づかなくっちゃ」