【感じる時間】やさしくて強さのある美しい眼

『兔の眼』(灰谷健次郎著 角川文庫)を読みました。
この本は、約50年前の1974年に刊行されています。
 
私も昔々、多分一度は読んだことがあると思います。
しかし、何の記憶も印象も残っていません。
その頃の私には響かなかったのでしょう。
響いても読んだ内容は、すぐに忘れてしまいますが。
 
今でこそ、3日に1冊ないしは2日に1冊本を読んでいる私も、
小さい頃からたくさん本を読んでいたわけではありません。
記憶はないけど、全く読んでいなかったわけではなく、
それなりには読んでいたと思います。
大学時代や大人になってから読んでいたものは、推理小説ばかりで、
あとはビジネス書、司馬遼太郎の時代物などがほとんどでした。
私の会社人としてのあり方は、
多分に『竜馬がゆく』の影響を受けていたと思います。
 
社会人の今は、ビジネス書には全く興味がなくなり、
子どもや教育に関わる本に関心が高く、ごく最近、小説も読み始めました。
そして、この本に巡り合いました。
引き込まれました。
涙もにじんできました。
 
読み終えて、灰谷健次郎という人や善財童子などを、
ネットで少し調べたりしました。
この時代に、これだけものが書かれたことに、感動を覚えます。
その時代の、イキイキした子どもたち、わんぱくな子どもたち、
想いのある先生や大人たち、地域のつながりを感じます。
子どもたちのやさしさや強さを感じます。
 
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どうしてぼくが、そんなことをおもいついたか、おしえてあげよか。
ぼく、みなこちゃんがノートやぶいたけど、おきらんかってん。
ほんをやぶってもおこらんかってん。
ふでばこやけしゴムをとれれたけど、おこらんと、
でんしゃごっこしてあそんだってん。
おこらんかったら、みなこちゃんがすきになったで。
みなこちゃんがすきになったら、
みなこちゃんにめいわくかけられてもかわいいだけ。
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小谷先生は、誰も受け入れようとしない知的障害のある子を、

周りの反対を押し切り受け入れ、どんな状況でも守り抜きました。

 

鉄三というまったくしゃべらない、友だちとも遊べない子に寄り添います。

その子の好きなハエ、ハエ博士ともいわれる得意なことに、

小谷先生は関心を寄せ、いっしょに観察して学んでいきます。

字も書けなかった鉄三は、ハエの名前を書いていきます。

そして、言葉が出てこなくても、

友だちとのコミュニケーションは取れるようになってきました。

好きや得意を伸ばす教育がありました。

一方で、今の時代の先生にそこまで期待するのは、

以前に学んだ先生の状況からすると、かなり酷かなと思います。

【学びの時間】先生の応援団として知っておきたいこと - Sol Cafe 『幸せの栖(すみか)』 (hatenablog.com)

 

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西大寺 善財童子(ネット画像)

「兔の眼」とはなにか?

ネットにはこんなものがありました。

『兎の眼』 / 東海大学新聞 (tokainewspress.com)

 

本の中には、たった1か所だけ「兔の眼」が出てきます。

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西大寺は竹がいいと小谷先生は思う。

お寺の中に竹におおわれた細い道がある。

そこには、まだ白壁が残っていて竹の青によくあうのだった。

本堂の中は夏でもひんやりしている。

ここは素足にかぎる。

小谷先生はソックスを脱いで、その冷気にふれた。

そして、まっすぐに堂の左手の方に歩いていった。

そこに善財童子という彫像がある。

「こんにちは」と小谷先生は呼びかけた。

「ちゃんとまっていてくれましたね」

小谷先生はほほえんだ。

あいかわらず善財童子は美しい眼をしていた。

ひとの眼というより兔の眼だった。

それはいのりをこめたように、ものを思うかのように、

静かな光をたたえてやさしかった。

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小谷先生が2度西大寺を訪れたときのことが書かれています。

上記の表現は、一人で訪れたときのものです。

もう一度は、夫と一緒に行っています。

夫はうわのそら、何も見えていなくて何も感じていませんでした。

 

小谷先生は、どんなにつらい状況があっても、

子どもたちと接し、子どもたちのために頑張っているときは、

小谷先生はイキイキとして、幸せでした。

その心豊かな社会の外にいる夫は、

お金、地位権威を成功の対象としてみる会社社会に住んでいます。

そんな夫と一緒にいるとき、小谷先生はつらい思いをしていました。

 

人が生きるとき、ほんとうに大事なものは何か?

をすごく考えさせる名作でした。

自ら動くことが、人の意識にも影響を及ぼすのです。

そして、ほんとうに大事なことを大切にする人が増えてきます。

さらに、子どもたちの純粋さを大事にする人が増えてきます。

そんなことを感じさせる名作でした。

 

次に、『太陽の子』も図書館に予約しました。

 

これまで、本を読むことは学びを深めることだと思っていました。

その学びを、【学びの時間】としてブログに書いてきました。

最近小説も少し読むようになって、今回『兔の眼』に接して、

本を読むということは「感じる時間」でもあると思い、これを書きました。