見えるものしか見ていないと....

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12月2日に、学童保育の勤務の一環で、国分寺市の研修に参加した。

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タイトルからは推測できなかった、深い内容があった。

障害者・虐待という範疇を超えて、

人が生きるとは何かを示してくれたと感じた。

 

一番のポイントは、多くの人は、見えるものしか見ていない、

それが問題だと考えて、その問題行為を矯正しようとする。

それは、問題行動を起こしている本人不在の対応であって、

問題の解決にはならないばかりか、問題をより悪化させてしまうということ。

 

講師の野澤さんは、元新聞記者で、

障害者施設で起こった事件を中心とした取材をして記事にしてきた。

それだけではなく、ご自身の息子さんが、言葉が話せない強度の自閉症で、

その生身の体験が研修中に語られていて、とても説得力があった。

息子さんはもう30歳になっている。

 

息子さんの散髪の実体験が語られた。

息子さんにとって散髪は苦痛でしかない。

それでも、散髪はする必要があるので、床屋に連れていく。

特に、耳のそばではさみをチョキチョキすると、彼にとってそれは恐怖。

だから暴れる。暴れるから、頭を押さえつける。

それで恐怖はより増すので、さらに暴れる。

だから、より強く押さえつける。最後には二人掛かりで。

とどのつまりは、床屋のあの大きな椅子がひっくり返るような惨事になった。

 

野澤さんとしては、それしかやりようがない、

当時はそう思っていたが、それは嘘だった。

人に紹介されたある床屋に行くと、そこの親父さんは、

ひとりで息子さんの髪を刈り上げたのである。

気長にすごい時間をかけて。切ると暴れるので、暴れそうになったら、

手を止めて腕組みして、じっと鏡を見て、ずっとそうしている。

息子さんも、同じようにじっとしているそうだ。

そしておもむろにはさみを入れる。

嫌がるので、またやめて、じっと待つ。そしてはさみを入れる。

その繰り返しで、刈り上げることができた。

それで信頼関係ができたのか、最近は、髭もそり、

シャンプーも問題なくできるようになっている。

 

押さえつければ、暴れる。それは、本人に恐怖感があるから。

見えるのは行動障害、それを何とかしようとしても、

本人の恐怖心はなくならないどころが、より大きくなるということ。

それ以外に方法がないというのは、

考えていない、見つけようとしていないから。

どうしてそうなるのか。

本人の内面に目を向けないと、行動障害をなくすことはできない。

 

もう一つ、例が示された。

自分のこぶしで、自分の頭を叩き続けるという

自傷行為の障害者を受け入れたある施設でのこと。

見えるものは自傷行為。

だから、頭を叩かせないようにするために拘束衣を使う。

そうすると手が動かないので、頭を机にたたきつける行為をする。

より危険なので、椅子に縛り付ける。

今度は、無理やり椅子をガタガタ動かして、壁に頭をぶつける。

そうなると、ベッドにしばりつけるしかないのだけれど、

それで問題が解決するはずもない。

 

どうして、彼は頭を叩くのか?

普通の人でも、軽く頭を叩くと、疲れた時など気持ちがよかったりする。

ひょっとすると、自傷行為ではなく、

振動の快感を求めているのではないだろうかという仮説ができた。

ゴムボールなどやわらかいものを用意するがうまくいかない。

最終的に行きついたのが、音楽。ヘッドフォンをつけて、

ビートのきいた音楽をかけること。

音量を調整すると、その問題行為は収まった。

治療にも音楽を使っていって、頭を叩くという行為はなくなったそうである。

 

施設で働く職員も考え方を変える必要がある。

かわいそうな人を預かってあげる。できない人を支援してあげる。

このマインドだと、視点が自分の気持ちなので、

思うようにいかないと、単純労働、3K職場となりがち。

そうではなくて、

障害者が能動的に社会にかかわっていけるための

支援や環境作りをすることを心掛けることが肝要。

 

すべての人、障害のある人にも、子どもにも人格がある。

問題行動、問題な人間という問題は、だれがそう考えるのか?

それは、一方的な思い込みでしかない。

いわゆる問題と思える行動には、必ず何らかの理由がある。

また、それをするようになった背景がある。

目に見える行動障害を治そうとするのは、

対処療法でしかなく、根本的な解決にはならない。

原因を見つけて、そこを癒さないと、問題は悪化していくばかり。

それは簡単ではないが、まず、寄り添って、

しっかり見ていくことしかないと思える。

それでも、どうしていいかわからないことが多いが、

研修の中に、一つの大きなヒントがあった。

 

アセスメントが大事だという。

問題の行動だけではなく、本人が何に興味を示すのか、何が好きなのか、

どんなことをしたら喜ぶのか、何に集中できるのか、それを見ていくことが重要。

好きなことや楽しいことが見つかったら、それをしっかりさせてあげると、

楽しいことに気持ちが向くと、行動障害も収まっていくという。

ここは、いま通っている学童保育でできる一番大きなポイントだと思っている。