初めての年間パスポートを手に、昭和記念公園に入る。
薄青く澄みわたる空に雲はない。
お日さまの光に包まれて独り歩く。
顔に感じる空気は、やはりまだ冬。
時折吹く風も冷たい。
広い公園は春を待っている。
時期が来れば、季節の花々が咲く庭園も、
ロープで仕切られ、まだなにもない。
でも、花壇の淵には、可憐に咲く水色の花がある。
イヌノフグリという花である。
その横には、下に根をはって時期を待っている草葉がひっそりとしている。
気持ちのいいくらい大きな広場では、
家族連れが思い思いに、のどかな時間を過ごしている。
芝生に寝転がっている人
お弁当を食べている家族
小さなテントもある
バドミントンをしている親子
ボールをけっている家族
キャッチボールをしている人たち
フリスビーをしている人たち
やわらかく、穏やかに人々の楽しそうな声が聞こえる。
子どもたちのはしゃぐ声、そして、幼い子の鳴き声もある。
ボールがグラブに収まる音が、あるテンポで聞こえる。
カラスの鳴き声のほかに、鳥のさえずりも聞こえる。
公園内を走る機関車バスの音が聞こえる。
空から、ヘリコプターの音だろうか、わずかな機械音も聞こえる。
いま、春を待つ桜木に囲まれたベンチに座り、
感じたままをノートに書き取っている。
しばらくじっと座っていると、
お日様に照らされながらも、さすがに冷えてくる。
それでも、持ってきた岩波少年文庫041を手に取ってみる。
少しだけでも読んでみよう。
『トムは真夜中の庭で』(フィリパ・ピアス作)
に挟んだ栞のページを開けた。
開けたページには、こんな言葉があった。
「トムはいつでも忘れてばかりいた。」
現実の世界にあるときは、庭園の友だちのハティに会ったとき、
頭のいい質問をしてやろうと計画するトムは、
真夜中に夢のような庭園に出て行くと、
もう刑事のような質問なんてすっかり忘れてしまって、
自分は男の子だということ、
ハティは自分の友達だということのほかは
何も考えなくなるのだった。
この場所にいると、毎日のように報道されることが嘘のようだ。
今日はそんな豊かな時間を過ごすことができた。
これからは、ここに、いつでも何度でもやってくることができる。