【学びの時間】いじめについて考える④ 広い海に出ていこう!

これまで3回にわたって、いじめについて考えてきた。

①は「いじめ」そのものではなく、環境をしっかり作るということで、

本来子どもたちが持っているチカラが発揮されると、

大人が感動するようなものが出てくるということを書いた。

 

②③は、『いじめを本気でなくすには』(阿部泰尚著 角川書店)の学び、

最後の今回も、この本からの派生で学びを続けたい。

 

いじめは起こってから対応するのは、非常に大変だということ。

何でも同じことで、例えば介護の問題を考えても、

自力で生活できなくなり、ほぼ寝たきりになってから介護をするには、

介護する方も介護される方にも、ものすごい労力や精神的な負担がかかる。

介護を受ける人をできるだけ少なくする、

介護を受ける時間をできるだけ少なくするには、

心身ともに健康な生活ができる環境を整え、

その大切さを、人たちに理解してもらうことが大事である。

 

いじめは「防止」が大事である。

仲野繁さんが校長時代に実現した辰沼小学校の取り組みについて、

③で触れたが、その「キッズレスキュー」について、さらに調べてみた。

「キッズレスキュー」とは何かについては、この情報がわかりやすい。

sankou4.pdf (kantei.go.jp)

仲野さんの講演のレジメ(長文)があるので、参考までに添付しておく。

辰沼小学校「キッズレスキュー隊」 | スクールカウンセラー養成所 (maenoshinn.com)

 

いじめの本質に向き合い、よく考えたうえで、

子どもの自主性を引き出す活動にしていったことに感心する一方で、

私には気になる点が3つくらいあった。

 

ひとつは、「撲滅活動」という言葉。

私は、戦う姿勢を表現したこの言葉が好きではない。

いじめとは、撲滅しなければならないものだろうか?

 

2つ目は、スローガンの言葉。

「いじめを、しない、させない、許さない」

すべて否定形で書かれている。

レスキュー隊のパトロールは、隊員が旗、鉢巻、腕章をつけて、

このスローガンを声に出して校舎内や校庭を1周するという。

 

「脳は否定形を理解できない」とよく言われる。

否定形で物事を考えると、それをより意識してしまい、

否定形の付かない行動をしてしまうので、肯定形で表現しよう、

というのは、ドリームマップ授業で子どもたちに伝えていること。

「朝寝坊しない」ではなく「早起きする」というように。

 

では、このスローガンをどうしたらいいのか?

「自分を大切にし、他者を尊重し、認め合って支え合う、

時には葛藤もしながら、ともに成長していこう」

ということであるが、これではスローガンにならないし、

そんなことを触れて回ることもできないだろう。

 

物事を肯定的にとらえ活動しようとすると、

戦う姿勢や、恣意的な行動にはつながらなくなる。

より本質的なところでの活動が、必要になってくると思える。

 

あともうひとつが、「レスキュー隊」を作ったということ。

これは先生からの強制ではなく、

子どもたちが自主的に考えて組織したものであるという。

さらに、参加は自由であるということ。

これだけ聞くと、とてもすばらしいと思えるが、

子どもが一から考えたのではなく、校長先生が考えたものを、

子どもたちが具現化したので、どうしても大人の意志が入っていると思える。

「自由参加」というのもとても気になるところ。

子どもに選択権があり、自分で選べるというのはよいのだが、

何らかの理由で参加しない子には、少なからぬうしろめたさもあるだろうし、

周りからは、差別はしなくても、

彼(女)は参加しないんだと認識されてしまう。

特別な組織を作った活動には、どうしてもこういう面が出てくるのは、

ぬぐえないし、それがおいおい負に働いていく危うさを持っている。

 

成長の5段階というのがある。

  1. 無意識無能(知らないから、できない)
  2. 有意識無能(知っているが、できない)
  3. 有意識有能(意識すればできる)
  4. 無意識有能(無意識にできる)
  5. 有意識有能・無意識有能(人の役に立つことができる)

 

この「キッズレスキュー」の活動は、3の段階だと思える。

 

5は成長した結果だと思われるが、

成長段階にある4のレベルに持っていくにはどうしたらいいのだろうか?

 

それがさかなクンの「広い海に出ていこう」だと思えるのである。

 

『いじめを本気でなくすには』(阿部泰尚著 角川書店)

でイエナプランについて書かれていた部分がある。

ほとんど1-2ページの短いものだった。

--------------------------------------------

現状のままでは、流れは変わらず、連綿と受け継がれていくだろう。

いじめがなくなることもない。

しかし、少しずつ変化は見え始めている。

たとえば、イエナプランの受容だ。

日本にも一部には新しい考えに同調し、進めようとする人たちがいる。

--------------------------------------------

 

今の日本の教育システムを続ける限りは、できることは3止まり、

4には行けないのではないか?!、私にはそう思える。

それを目指すのなら、そこを目指す必要があると思っているが、

そもそも「いじめ問題」という言葉や意識がなくなる教育システム、

それを希求し構築していくことが不可欠ではないだろうか。

それは必ずしも、イエナプランである必要はないが、

いわゆるオルタナティブ教育に大きなヒントがあると思っている。

 

映画「夢みる小学校」はまだ観ていないので、

近々行こうとは思っているが、たぶんそんな小学校では、

いじめ行動をとるような子は生まれようがないだろう。

 

子どもたちが一人の人格として尊重され、

自主的・主体的に生きて行くための環境を用意すること、

それが一番大事なんだと思う。

 

また、子どもたちみんなが自分の夢をもったら、

好きなことや、やりたいことが存分にできたら、

いじめは起こらないだろう。

当然、みんなが違い、完全にわかり合うことはできない。

だから、どんな場合でも、いさかいは起こる。

しかし、それはいじめとは質が違うものであり、

それがないとまた問題でもある。

安心・安全を優先し過ぎて、

子どもの自主性・主体性を損ないようになってはいけない。

 

子どもたちは自ら育つ力を持っている。

狭いところに閉じ込めないで、広い海に出ていこう!

 

f:id:solcafe:20220326111828j:plain

この写真は、カナダトロントの郊外のPort Credit。

Credit RiverがLake Ontarioに出る河口付近。