奇跡の自然

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「奇跡のリンゴ』(石川拓治著 幻冬舎文庫)より

 

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自然を細切れに分解して理解しようとするのが自然科学の、

つまり科学者の方法論だとするなら、

自分がなすべきは、その正反対のことだと木村はいいたいのだろう。

自然は細切れになど出来ない。

それは、木村があのドングリの木の根元で悟った重要な真理だった。

 

自然の中に、孤立して生きている命など存在しない。

自然をどれだけ精緻に分析しても、

人はリンゴひとつ創造することは出来ないのだ。

バラバラに切り離すのではなく、ひとつひとつのつながりとして観察すること、

科学者がひとつひとつの部品にまで分解してしまった自然ではなく、

無数の命がつながり逢い絡み合って存在している。

 

生きた自然の全体と向き合うのが百姓の仕事なのだ。

だから百の仕事に通じなければならない。

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自然という現場を味わいつくした木村秋則という人の言葉ですね。

木村さんは、リンゴ農家。

  • リンゴ農家は、畑にリンゴの木をたくさん植えている。
  • それは、自分たちが食べるためではなく、売り物にするため。
  • 売って利益を上げるためには、見た目もよく、質の高い商品としてのリンゴを大量に作る必要がある。
  • だから、肥料を豊富に与え、害虫や病気を防ぐために農薬を使う。

特に、リンゴを無農薬で作るのは奇跡に近いということのようです。

なぜかは、本に書かれています。

 

ことばを選ばずに言えば、

商業としての農業は、お金を稼ぐために、

自然の秩序を壊す方法で、人間の健康をも害する商品を作っている、

ということになるのではないでしょうか。

 

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この栽培を続けてきて、木村が発見したことがある。

それは、肥料というものは、それが化学肥料であれ有機肥料であれ、

リンゴの木に余分な栄養を与え、害虫を集めるひとつの原因となるということだ。

肥料を与えれば、確かにリンゴの身は、簡単に大きくなる。

けれど、リンゴの木からすれば安易に栄養が得られるために、

地中に深く根を張り巡らせなくてもいいということになる。

 

運動もロクにしないのに、食べ物ばかり豊富に与えられる子どものようなものだ。

現代の子どもたちに、免疫系の疾患が増えていることは周知のことだが、

肥料を与えすぎたリンゴの木にも似たことが起きるのではないか。

その結果、自然の抵抗力を失い、農薬なしには、

害虫や病気に勝つことができなくなるのではないかと、木村は言う。

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肥料・農薬に頼る農業と、

飽食で、かつ過剰なまでの潔癖性を求めるの現代人のありかたは、

双方とも、ある一側面の効率性・生産性を追い求めすぎているようです。

 

病気になった葉っぱをじっと観察すると、

計り知れない自然の営みの一端がありました。

それは、畏怖としか言いようのないものなのでした。

 

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斑点落葉病特有の茶色い病斑がついた葉がある。

→ 病気に冒された部分がカラカラに乾燥

    (葉っぱがそこだけ水分の供給を絶って

      病気を兵糧攻めにしているみたいに見えた)

→ 病斑部がぽろりと落ちて穴があいた。

→ この葉っぱの横についている小さな葉がどんどん大きくなっていった。

  穴の大きさと葉っぱが大きくなった分がほぼ同じ。

→ 穴がもっとたくさんあいて、それでは補えなくなると、

  今度は枝の先に新しい葉っぱを出す。

畑に堆肥をやっていた頃は、病気になってもこんな穴は出来ていなかった。

この畑にはぎりぎりの栄養しかないから、

リンゴの木が元々持っていた自然の力が引き出されたと思われる。

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ここに表現されている自然の計り知れないほどにすぐれた仕組みは、

人間の人体のなかにもあります。

それなのに、その人体の持ち主の人間の脳は、自分の体を信じることなく、

不具合があれば、薬を飲ませ、無理やり脳の思う状態に仕向けようとしている、

そう思えて仕方がないのです。

 

この本を読んで感じるのは、自然は計り知れない存在であることです。

だからこそ、コロナウイルスは、

  • 人間よおごるなかれ
  • 自分自身が自然の産物であることを忘れるな
  • 一番大切なものは何かに向き合いなさい
  • 付和雷同せず、自分で真摯に考えろ
  • 謙虚になって、いまを生きろ

そういうメッセージを伝えているのだと思えるのです。